4.今までで、最も痛い経験(その2)

自業自得ではないが、またまた歯にまつわる話。

私はあっけらかんと書いてますが、人によっては「ゲゲッ!!」と思うかもしれません。(ほんの少しの差で、失明してたかもしれないし。)こちらも、取り扱いご注意でございます。(^_^;)今から9年程前(1993年ごろ)、20代半ばの頃、仕事中に起きた話(というか事故)です。

私がまだアシスタントだった頃、ビーカーに水を入れ、慌てて現場に戻ろうとした。 その途中、私は電話の配線につまづき転んでしまった。ところが…!!

水の入ったビーカーを持っているため、とっさに手で支えることが出来なかった!!

次の瞬間…、世界にすみれ色のベールがかかっていた。

「大丈夫?!立てる?!」

私「…立てません。」

あまりに突然の出来事だったので、一体自分の身に何が起こったのか、理解できなかった。どうやら、顔から転んで、脳しんとうを起したらしい。 おまけにビーカーは粉々、その破片で切ったのか、血まみれになっていた。

しばらくして、やっと起き上がれるようになった。みんなが心配して「みのこさん、大丈夫?!」と聞くが、全然大丈夫じゃない!!私は傷口をタオルで抑え、会社の人に付き添ってもらい、病院に行った。 (それが、「ノドと胃の異変」と同じクリニックである。)

私は、右手の人差し指の付け根のあたり1センチと、唇の下1.5センチ、その裏側に当たる口の中を、前歯が当たった衝撃で切っていた。 もちろん、麻酔をかけて縫ったのだが、その時何気なく、自分の上の前歯を触ってみた。

ぐらっ…

私「あの〜、歯がグラグラになってるんですけど…。

何と!上の前歯が1本グラグラになっていた!!通りで痛いはずだ!!

だが、このクリニックでは処置することが出来ず、上のフロアにある歯医者に行った。しかし、そこでも処置ができず、T医科歯科大学の口腔外科を紹介される。

私は 一人で電車に乗り、T医科歯科大学に向かった。その間も歯がボロっと落ちやしないかとヒヤヒヤした。(歯の根は意外と深いので、そんなに簡単には取れないらしいが。)その日は、ゴールデンウィークの真っ最中、基本的に休診で、私は急患である。急患なのに、スタスタ歩いて病院に来る患者も珍しいだろう。

そこで、診察を受け、レントゲンを撮ることを指示される。ただ、最初に行った 歯科でもレントゲンを撮っていて、折れている可能性はほとんどなかった。もし、折れていたら、歯が死んでいくだけなので、抜歯するしかないらしい。もし、抜歯と言われたら、怪我のショックもあって、思わず泣いてしまったかもしれない。

やはり、前歯は折れてなかった。私の全体重と、転んだ衝撃を思いっきり受けたはずなのに、丈夫な歯に感謝した。

(2013年3月24日追記…このとき「もし、歯が黒くなってきたら、歯の神経が死んでるので、病院に来て下さいね。」と言われた。それから約20年…そんなことを言われたのも忘れたぐらい時間が経った頃、歯科で歯の神経が死んでいることを指摘された。でも、神経の治療をして、未だ抜歯は免れている。)


ちなみ に私のカルテには「歯牙脱臼」と書かれていた。(後から思い出すと、何となく笑える病名である。苦笑)

そんなワケで、グラグラしている歯を、固定することになった。 だが、この時の麻酔と言うのが、前歯の歯茎の硬いところに指すせいか、とても痛い!! 知らないうちに、涙がボロボロこぼれた。

Dr「怪我より、麻酔の方が痛いよね。」

分かってるなら、何とかして欲しい!!

そして、歯の矯正の時に使うブリッジのようなものに、グラグラになった歯の根本を、針金で巻きつけて固定した。処置を終えると、この日は職場に戻らず、家に帰った。 とりあえず麻酔が効いていて、痛くはないので、血だらけになったジーパンを洗濯する。

変な話だが、「突然亡くなった人は、自分が死んだことが分からない。」というのがよく分かる。 私も昨日まで、何もなかったのに、いきなり怪我人になってしまったのである。どうも、このケガが他人事に思えて仕方がなかった。

だが、本当に大変だったのは、この後である。

麻酔が切れてくると、固定した前歯も、下唇の下の表側も裏側も痛む。ちょうど、口 の中に心臓があるようにどくんどくんと痛んだ。 おかげで、前歯が全く使えない状態である。 熱いものも、冷たいものも傷にしみるので、体温ぐらいの温度で、やわらかいものしか食べられない。

そのせいでいつも飢餓状態になり、さらに下唇は2倍に膨れ上がり、まるでいかりや長介の人形みたいな唇になった。(苦笑) 「このまま戻らなかったらどうしよう?!」と不安に思ったが、腫れも痛みも3〜4日経つと治まってきた。縫った傷は、4日目ぐらいで抜糸した。

傷の痛みは、当日が一番大変で、2日目に半減し、3日目にさらに2日目の半分になった。さらに2週間後、歯の傷も治り始め、前歯のブリッジが負担になってくる。( 歯の矯正をしている人は、根性あって偉いぞ!!)

その日、T医科歯科大学に行くと、教授らしき人の診察で、「もうブリッジが負担になってきているようだから、外すように。」と、助手らしき人に指示した。それで、ブリッジを外し、両隣の歯との境に、接着剤のようなものを付けて固定すると、かなりスッキリした。そんなわけで、全治3週間の怪我であった。

ちなみに、この怪我は全て労災扱いで、ほとんど自己負担はなかった。さらに、傷害保険にも入ってたから、15万ぐらいの収入になった。 でも、ちっとも嬉しくないぞ!!!

それに、ビーカーの破片で切った傷も、下唇の真下と人差し指の付け根という目立たない位置だからよかったものの、運が悪きゃ人相が変わるぐらいの傷になるし、もっと運が悪いと破片が目に入って、失明してたかもしれない。

人生、何事も経験と言うが、絶対に二度と経験したくない出来事であった。