5.執行猶予が終わった日(2013年5月7日)

わざわざ自分から予約を早めた外来の日。
初めてT大病院を訪れた時のように、なぜだかとても行きたくなくて、前夜もなかなか寝付けなかった。

でもこれはいつか必ず対峙しなければいけない問題…と自分を奮起させて病院へと向かった。

GW明けの産婦人科外来は驚くほどに空いていて、10分程度しか待たされずに私の診察番号が表示された。診察室に入ると、M先生は前回のMRIの画像を映し出し、私が何か言う前に話し始めた。

「手術した方がいいね。いずれ取らないといけなくなるし。」

「はい…。」

自分の声が緊張しているのが分かったが、ここで言わないとずっと言えないと思い、切り出した。

「でも先生、私がすごく引っかかっているというか……、ものすごく気になっていることがあって。。私はとても痛みに弱いのですけど、大丈夫でしょうか?」

「大丈夫じゃない?腹腔鏡は、手術の中でも一番楽な部類の手術だよ。麻酔科の先生も痛みに関しては押さえるようにしているし、今の手術はあなたが思ってるほど痛みはないかもしれないよ?」

「…というか、注射1本でも苦手で、歯医者の治療ですら、無痛治療のところにしかいけないのですが、大丈夫なのでしょうか?」

「歯医者の治療とは全然痛みの性質が違います。あの痛みがここ(子宮)で起きたら、大変なことだよ。」(そりゃそうなんだが…。)

「(せっかく今、腹腔鏡手術でできるのに)このまま大きくなって、開腹手術になってしまう方が不幸だよ。」

「はい。。。」

この後、何を話したのか実はよく覚えてない。(あるいは何も話してないのか?)

ただM先生はいつもどおりの穏やかな口調だが、「今、決断しなくてはダメだ。」と言わんばかりの有無を言わせない、決してNOと言えない空気があった。

「(手術日は)いつがいい?早い方がいい?」

「早いって……いつですか?」と聞くと、M先生は奥からカレンダーのようなものを持ってきて、12月9日を指し示した。(T大病院は7ヶ月待ちのようだ。)

「入院はどのぐらいになるのですか?」

「1週間でね、日曜日に入院して土曜日に退院するの。」

「その後、どのぐらい休めばいいんですか?」

「それは体力勝負。でもみんな、退院したら、電車に乗って帰っていくぐらい元気になってるよ。」

え〜〜〜?ホントかな?

どこぞの掲示板で、「例え腹腔鏡手術でも、退院日に電車に乗って帰るのは大変だからやめれ。」とあったぐらいなのに??でもM先生はそんな気休めを私に言うとは思えないので事実なのだと思う。(T大病院で手術した人の回復はそのぐらい早いということだろう。)

「私の仕事は、熱があったり具合が悪くても、休めない時があります。だから無理して出ると大丈夫だと思われるので、余裕を持っておきたいです。」

「まあ、元気になるって言っても、1週間の入院で体力は落ちるからね。退院後、1週間休んで、もう1週間も休めば完全復帰できるよ。」と言われて、カレンダーを見ると、退院予定後2週間目は年末にあたり、「正式復帰は年明けか〜〜。」とぼんやりと思った。(カルテも医師同士の連絡もデジタルなのに、なぜか?手術日程だけは卓上カレンダーを大判にしたような「アナログ」なのが笑えた。)

「この日程(手術日のこと)は、早まったり遅くなることはあるのですか?」と聞くと、「我々の方からはありません。」と。

だが、「あまり強引に言ってかわいそうなことしたかな?」と思われたのか、「あなたの都合のいい日程で決めていいんだよ。」と何度も言われた。しかし、呆然として頭の中が真っ白になっている私は「(ここまで先だと)どこでも同じですから。」と素っ気無く答えてしまった。

「3ヶ月後に様子を診たいんだけど…いつがいい?」

8月に外来の予約を入れた時、私の電子カルテには「12月9日腹腔鏡下子宮筋腫核出術予定」とあり、穴が開くほどマジマジと見つめてしまった。もしこれが、「腹腔鏡下子宮全摘術」などと書かれていたら、私にとってはとんでもないことである。(もっともM先生は、そんな大切なことを最初に話さず、どんどん話を進めていくような医師ではない…と思う。)

「(手術のことは)また追々準備をしていきましょう。」と言われ、「はあ…。」と私は、無意識にため息をついていた。

「そんなこと(痛みに弱いから手術を躊躇する)言われたの、初めてだよ。」と少々呆れられた気もするが、「“痛みに弱い”と言うことについてはまた考えましょう。」と言われた。

思わず「何を?」と思ったが、なんかどうでもよくなって特に質問しなかった。

そして呆然としながら、病院を後にした。私の頭に残っているのは、次回の外来の日程(これも清算時に予約表がプリントアウトされなければ怪しいところ)と「12月9日」と言う手術の日程だけである。(「子宮がかなり大きくなってる。」とか言われたが、よく覚えていない。)

なぜ医師がみな「次回はご家族の方と一緒にいらしてください。」と言うのかわかった。当人は、「手術」と言うことだけで頭が真っ白になり、何も頭に残らないからである。(手術までの期間が短ければ、少しずつ話していく余裕がないからだ。)多分、先生からすると、今日は日程だけ決められればOKで、「今、いっぺんに色々言っても(私の)頭に入らないだろう。」と言う感じだろう。

(おそらく)人生における重大な選択を、いともあっさりと決めてしまった……。(あんなに悩んでいたのに…?)

本当に私には「手術しない」と言う選択はなく、この2ヶ月間は「執行猶予」だったのだ!(「執行猶予」ならまだいい。だけどこの場合、「確実に執行する」ことが前提なのだから。)

後から思い出すと……手術の日程を聞いたとき、M先生は「ここ(12月9日)でやろうかと思ってるんだけど。」と言った。私が来る前から日程を決め、話そうと思っていたということだ。

おそらく、内視鏡の専門医であるM先生からすると、「開腹手術なんてありえない!!腹腔鏡手術でできるうちにやらなければ、何の為に長いこと自分のもとで経過観察してきたのか?」と言う感じだろう。でも、いまいち煮え切らない私に、「このままやんわりと言い続けてもダメだ。」と業を煮やし、強く背中を押したのだと思う。(よく性格をわかってらっしゃる。。汗)

意地の悪い言い方をすると、婦人科の良性疾患の90%を内視鏡手術で行うT大病院で、自分の受け持ち患者がタイミングを逸して「むざむざ開腹手術にさせてしまった!」なんて、内視鏡専門医のプライドが許さないのではないか?

でも、子宮筋腫の場合、命に関わらない病気のせいか?「手術しなくても・してもよい」などという曖昧なことを言う医師が多く、それゆえに悩んでいる人もすごく多い。それを戸惑うほどに強く、手術の必然性を言うのは、医師としてのプライド以上に、「自分が長く経過を診てきたのだから、もっともよい時期によい状態で手術してもらいたい。」というありがたい親心かと思った。(ということにしておく。)

現に腹腔鏡手術で「必ず」と言っていいほど行うホルモン療法の話も今回は出ず。(現状、手術適応範囲だからと思われる。)次回話があったとしても最大でも4ヶ月。副作用が出やすく、料金の高い治療が少なく済むのは幸いなことだった。


今の状況。。例えるならば、絶対いつか必ず乗らなければいけない満員電車。

「はあ、そうですか。これに乗ればいいんですか。でも私、乗り物酔いが心配なんですよ。(心の声・なんかイヤだなぁ。。乗りたくないなぁ。。)」とほけーっと言ってるうちに「いいから乗りなさい。」と強引に押し込められたようなものだった。

この選択でよかったのだろうか…?
まあ、いいのだろうな。。。


先生の話を聞くと、腹腔鏡手術がものすごく楽な手術と感じるが、開腹手術とどのぐらい差があるのか?いまいちピンと来ていない。でもきっと私にとって一番よいと思われる選択なのだろう。

決してM先生は理不尽なことを言ったわけではなく、納得してないわけでもない。なぜなら「腹腔鏡下子宮筋腫核出術」は、私にとっては「楽な手術」でも、医師側にとっては難易度の高い手術と知っている。(医師からすれば「子宮全摘開腹手術」が一番ラク。)

だが、自分の気持ちは全くついてきておらず、ただ呆然としている今。。。この日、大切な仕事が入ってなくて、本当によかったと思った。 (そして、やはりとてもストレスを感じたのか?下痢が止まらず、もうちょっと後で来るはずの生理も始まってしまった。)